【弁護士監修】サイト売買の契約書で失敗しやすい「競業避止義務」とは?
※本記事は弁護士監修です。何かあった際は参考にしてみてください。
「同じジャンルのサイトを3つ運営しています。1つだけ売却したいのですが、売却したあとは残りの2つのサイトは運営できないって本当ですか?」
こんな質問を売却をご検討の売主様からお問い合わせいただきました。
同じジャンルや、似たようなサイトを複数運営しており、いつか売却を検討してい方は、ぜひ知っておくべき知見です。
このコラムをお読みいただければ、売却後に訴訟に発展することもなく、誠実なサイト売買ができるでしょう。
ぜひ、最後までご覧いただき、今後のためにもブックマークされておくことをオススメします。
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売り手からの問い合わせ
売却を検討している売主様から、冒頭の質問ですが「風の噂で聞いたことがあるけど、本当ですか?どういうことですか?」というお問い合わせでした。
結論から言うと、運営できないことはありません。
ただし、状況や買い手様の希望によります。
これは、売り手と買い手で交わす契約書の中で、競業避止義務という内容をどこまで交わすかによって変わってきます。
一つずつ、解説していきましょう。
競業避止義務とは?
競業避止義務(きょうぎょうひしぎむ)という言葉を聞いたことがありますでしょうか?
就職や転職で、会社に入社する時に聞かれたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
入社時の誓約や就業規則に含まれていたりするもので、一定の事業について競争行為(競業行為)を差し控える義務です。
所属する企業にとって不利益となる従業員による競業行為を防止する目的です。
具体的には、「◯年間は同業他社に転職しない」や、「自ら競業となる会社を設立しない」などさまざまで、義務に違反した場合は、退職金の支給を制限したり、損害賠償を請求したりすることもあるようです。
言わば、元従業員が在職中に得たノウハウを使って起業し、同業界で事業を始めたりすることで、企業が損害を受けないように規定されている義務です。
これをサイト売買に当てはめた時に、売主が売却するサイトの運営ノウハウを持っているので、売却した後に類似サイトを作成することで、買主の競合サイトとならないように規定されていることが一般的です。
買主にしてみると、大金を支払って買収した意味がなくなり、不公平になってしまうからです。
大前提としてですが、サイトM&Aの基本は事業譲渡となります。
事業譲渡とは、自社の事業を第三者に譲渡するM&A手法と言われています。
会社単位で売買する株式譲渡とは異なり、事業単位で売買する手法です。
具体的には、会社の不採算事業を切り離したり、事業整理をする際に活用されています。
サイト売買でいうと、複数サイトを運営していて、手が回らないので更新しなくなったサイトを売りたい、外注ライターが辞めてしまった機会にサイトを売却したい、などです。
“会社法”と呼ばれる法律では、事業譲渡について、買い手企業の利益を保護する目的で、売り手企業はなんと20年間の競業避止義務が定められています(会社法第21条)を負います。
もう一度言います、20年間です。
また,売り手が企業(法人)でなく個人であっても,商法と呼ばれる法律における「商人」などに該当する場合には同様の義務を負います(商法第16条など)。
会社法第21条(譲渡会社の競業の禁止)
1 事業を譲渡した会社(以下この章において「譲渡会社」という。)は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村(特別区を含むものとし、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市にあっては、区又は総合区。以下この項において同じ。)の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内においては、その事業を譲渡した日から二十年間は、同一の事業を行ってはならない。
2 譲渡会社が同一の事業を行わない旨の特約をした場合には、その特約は、その事業を譲渡した日から三十年の期間内に限り、その効力を有する。
3 前二項の規定にかかわらず、譲渡会社は、不正の競争の目的をもって同一の事業を行ってはならない。
つまり,売り手には事業譲渡日から20年間もの間、同一市区町村および隣接市区町村内にて、事業譲渡したものと同種の事業を一定期間行わないという義務が発生しうるのです。
ただし、売り手と買い手の双方が同意して特約を設定すれば、競業避止義務の期間を短縮できたり、会社法上では、競業避止義務を排除することも可能です。
サイト売買の場合でも、売り手と買い手の合意があれば、競業避止義務の設定は「基本的」に自由に設定が可能です。
会社法のように20年間ではなく、1年間や3年間、または無しということもあります。
(例えば、売り手側の職業選択の自由や営業の自由を不相当に制限するものである場合は、無効とされる余地もあります。
よって、無限定に何でも認められるというニュアンスとして捉えるべきではなく、あくまで基本的には自由に設定が可能ということです)
また、同じようなサイトを保有していても、買主様にとっては問題がなかったり、ジャンルを限定することで、誠実に売買ができたケースは多々あります。
ただ、ネットショップの場合は、自社サイト以外に、同じ商品をメルカリやアマゾンなど、他のプラットフォームでも販売していた場合は、ネットショップ売却後に販売を取り下げるなどの対応をすることが一般的です。
このようなすり合わせは、売買成立後の条件確認や、契約書作成時に行うことが一般的です。
【関連記事】サイト売買で弁護士に契約書作成を依頼するべき3つの理由
契約直前で破談になった失敗実例
類似サイトを運営していることを黙って売却しようとしていた売主様がいました。
多くの外注ライターを抱えて記事更新をしていたサイトでしたが、ライターは1名も譲渡ができないとのことでした。
サイト売買は、基本的にビジネス譲渡なので、5名のライターがいれば5名のライターがいて成り立つビジネスモデルです。
飲食店で言うと、店舗は売るけど従業員はついてこない状態で、事業譲渡というより居抜き物件のような感じで、サイトだけ売り、また別の類似サイトにライターをつけて運営していこうと考えていたのでしょう。
契約前に、買主から類似サイトの確認があったのですが、そこから急に掌を返したように、契約白紙を売主様から申し出られたケースがあります。
おそらくですが、買い手様が大きな会社だったこともあり、このまま隠し通せないと考えたのでしょう。
最も、最悪なケースかつ、紛争や訴訟に発展するケースとしては、このように、すでに類似サイトを複数運営しており、その事実を買主様に隠した状態で売却することです。
後で支払えないほどの損害賠償を請求される可能性を考え、売却自体を取りやめたのだと思います。
仲介としても、営業妨害となる行為ですので、損害賠請求も可能でしたが、今回の経験をきっかけに、真っ当なサイト運営をしていただきたいと考え、請求は致しませんでした。
ちなみに、この方の場合は、第三者の情報提供によって、類似サイトを運営していたということが後に判明いたしました。
類似サイトを3つ同時に売却した成功実例
さきほどの失敗例とは真逆のことをされた方の成功実例となります。
この売主様は、最初から類似サイトを同時に3つ運営していることを伝え、かつ同時に売却を進め、すべて売却できました。
同じジャンルを取り扱ったのサイトですが、狙うキーワードが違っていたり、売上規模が違っていたりと、棲み分けができていた3サイトでした。
よって、買主の方には、買収希望額によって紹介ができましたし、同じ売主様ということでの3サイト同時案内も可能でした。
最初から明確に、誠実に対応いただくことで、仲介としても案内しやすく、売りやすくなります。
また、買主の方もどのような売主様か理解しやすくなります。
サイト売買問わず、売買取引について、隠して良いことなんて何もありません。
良い実績も、過去のクレームも、事実を伝えることが重要なのです。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
競業避止義務の存在から、成功事例、失敗事例の紹介をしてきました。
ポイントは、最初に事実を伝えることです。
ちなみにサイトマでは、お申し込み時の売主様に「現在、本サイト以外にも、同じようなサイトはありますでしょうか?」と確認させていただております。
また、買い手様にもわかるように、ヒアリングシートにも入力いただくようにしております。
複数サイトを運営することは悪いことではありません。
類似サイトの複数運営している場合でも、理由を説明し、買い手に了承を得られれば問題ないのです。
誠実な取引は、誠実な人間関係や信頼を作ります。
あとで大きなトラブルにならないためにも、「事前に伝える、最初に伝える」を心がけましょう。
また、直接交渉で個人で売買取引を行っている買い手の方は、ぜひ売り手に「同じようなサイトは現在運営していませんか?」と確認してみましょう。
あなたのサイト売買の参考になれば幸いです。